平和の讃歌

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 とは言え、平和の賛歌は単なるBGMではありません。ちょっと話は飛びます。出エジプト記で、イスラエル民族の出国を拒んだエジプトに下された最後の災いは「全ての初子の死」でした。その日、真夜中に神がエジプトを進み、人から家畜に至るまで全ての初子を打ちました。神がエジプトを進まれる際、イスラエル民族は屠った子羊の血を門の鴨居に塗り、その血の目印を見た神はその家を「過ぎ越し」たので、災いはイスラエル民族に及びませんでした。これに驚愕したエジプト王は、ついにイスラエル民族を解放したのです。  鴨居に血を塗る、という行為はとてもグロテスクですが、ユダヤ教では血の中に生命が宿っている、と考えられていました。その行為は「イスラエル民族の初子の命の代わりに、子羊の命を神に捧げた」ことの象徴です。キリスト教徒は、その概念でキリストの死を捉えてきました。「神の子羊」という呼びかけは、直接はヨハネの福音書1章29節に出てきますが、この出エジプト記のエピソードを背景に持っているのです。この視点で「神の子羊、世の罪をのぞきたもう主よ」という呼びかけを見ると、「主(キリスト)は、世の罪をのぞくために捧げられた生け贄である」と捉えることが出来ますし、もっと意訳すると「キリストの死によって世の罪はのぞかれた」という信仰宣言なのです。
【外山 愛】